浅井 啓司

 

 釣りを趣味にする私は、水の存在がすごく気になる。ペットボトルに詰められた飲料水まではあまり気にならないが、ちょっとした水溜りでも何かいないかなぁと、覗き込んでしまう。店のディスプレーの水入れや施設内の人工的な川さえも中が気になる。生き物が棲んでいそうにない寺社の手水鉢にカエルでも見つけたものなら、嬉しくってたまらなくなってしまう。
 この寺社の参拝入り口付近に置かれている手水鉢は、私を喜ばす為に、蛙やサワガニ、時には小魚が入いる為の物では無い。その起源は、奈良時代に仏教が入った時に、東大寺と各国に国分寺・国分尼寺が建立された。奈良の大仏建立時に当時の税制、租・庸・調の中の使役で召集された人夫の労を労う為に、高層の発案で建立で出る廃材で湯を沸かし、風呂を提供した。これが、人工的な湯の風呂の起源とも言われているが、このときに使った石の湯船の建立後の再利用が、手水鉢となったそうだ。 それが、全国に広がり、寺社の入り口には清め用の大きな手水鉢が存在する事になる。 だから、ここで、一っ風呂浴びている蛙達の方が、正しい使い方をしているのかも知れないのかなぁと、思いを馳せながら、他にも何か生き物が居ないかと、いつも探してみている。 水の中の生き物が気になるのか、水そのものに興味があるのかは、自分でもよく解っていないが、とにかく、水は好きだ。


水汲み場のすぐ近くの入り口も東側にあります。 癖の無いすごく良い軟水ですが、味も無いような・・・
京都御苑の東に隣接する梨木神社。ここに京都三名井の一つで現在もそのままで残っている「染井」がある。 染井は、南向きのこの鳥居をくぐって、奥の鳥居を入った左側にある。
染井の汲み口は、蛇口になっていて、水量も豊富に出る。 大変人気の名水なのでいつも水を汲みに来る人の列が絶えない。 この手水鉢もかっては、湯船だったのかも・・・



 あまり綺麗な水には生き物は棲めない。有名な川柳に、「白河の清きに魚も住みかねて もとの濁りの田沼恋しき」と、言うのがあり、私が中学生の時の日本史の教科書にも出ていたものなので、ご存知の方も多いだろうが、これには、第十代将軍の徳川家治の時に異例の大出世で老中に抜擢された田沼意次の重商主義による収賄政治を、今の福島県白河市周辺にあたる白河藩主の松平定信が時期老中となり、収賄を一掃したクリーンな政治と質素倹約を強要する寛政の改革をとったところ、かえって住み難い世の中になったと言う風刺である。 水も不純物の無い純水は、まったく美味しく無いのと同じだろう。

 このタイトルを見られた時に、スプラッシュのホームページの文章だから、さしずめ釣りのポイントか釣果の良い水域、あるいは、水の状態の内容だと想像されたのではないだろうか。 でも、今回は、名水と言われる水を尋ねる内容だ。
 私は、コーヒーを良くたてて飲む。どうせなら美味しく飲みたいので、コーヒー豆も直前で挽いている。なのに、水は、少し上等の浄水器を通した水道水で済ませている。 色々な水を試してはみたが、京都市の上水道の南側をカバーするインクラインから流れ込んだ琵琶湖の水に馴染みを感じるのか、浄水器の性能が良いのか、それとも私の味覚が鈍いのか、あまり差を感じないので、まぁいいかぁ〜と、いうカンジである。 ところが、ある時、良い天然水に必要性を感じた。 娘が学校の茶道部に入って、家でもお手前の練習がてら、私にもお茶をたててくれるようになったのだ。 今まで、家での抹茶の消費といえば、生クリームに混ぜたり、ヨーグルトのオマケに付いている砂糖と混ぜて、抹茶風味の緑色の砂糖を作ったりするくらいのものだった。この、抹茶砂糖は、祇園のお茶屋さんで苺を出して貰った時に、下にひかれていた。色も、赤い苺と良くマッチしていて、お洒落なカンジになっているし、味もすごく良かったので、以後、真似て時々作っているのだ。作り方は簡単で、ビニール袋の中に、抹茶とヨーグルトのオマケの砂糖を入れて、降って混ぜるだけ。 是非、皆さんもお試しあれ。
 話がそれてしまったが、茶道と言うのは、色々なものに拘る世界のようだ。だが、娘には茶道に対する拘りは無く、お菓子が頂けるクラブと言う事で、お茶飲みクラブ感覚で入ったらしいのだが、お茶の話となると、何処何処の水が良いとか聞かされて来るようになったのだ。 私の妻も結婚前には、茶道教室に通っていて、そこで薮内流の先生に習っていた。その先生は、京都三名井の一つに数えられる醒ヶ井の水でお茶をたてていると聞いていた。 醒ヶ井は、有名な井戸で私の家からもそう遠くないのに、その井戸の存在はハッキリとは知らなかった。また、知っている人すら周りにはいなくて、中には、醒ヶ井はもう枯れて無いと言う話も聞いていたので、私の中では、醒ヶ井は伝説の井戸になっていた。
 先日、知人から、たまたま醒ヶ井についての情報を聞いた。京都観光に来た人に頼まれて醒ヶ井を探して来たと言うのだ。 そして、醒ヶ井は、なんと私の通っていた高校から100メートル程のところにあったのだ。 一旦は枯れた事もあるそうだが、同じ地で掘り直して、今も、名水として存在していた。一般にあまり知られていなかったのは、元々、醒ヶ井は、和菓子屋さんの敷地内で湧いた井戸なので、今も「亀屋吉長」と言う和菓子屋さんの所有地の中にあったのだ。場所は四条醒ヶ井北東角で、醒ヶ井通りは堀川通りの一つ東の小路になる。店の西側には、醒ヶ井の説明の高札、石碑、ディスプレー用の井戸がある。水は、入れ物を持って行ってお店で頼めば、汲んで貰えるが、やはり、買い物はしないと頼めませんよねぇ。 お茶用のお菓子を買うのと一緒に水も貰ってくるというのが、この近所の茶人のスタイルのようだ。
 私も、和菓子を買って、ポリタンクに水を一杯汲んで貰った。家に帰るとすぐに家族は、せっかくなのでお菓子を頂いて、お茶をたてようと言う事になった。 味は・・・私には、よくわかりませ〜ん・・・ でも、家族は、水汲みの苦労と運動が潜在意識に作用するのか、それとも本当に味覚が発達しているのか、とても美味しいお茶がたったと喜んでいる。それなら、もう少し飲んでみるかと、何杯もおかわりを所望しては首をかしげる私に、家族からは風流や雅とは縁遠いヤツと改めて指摘が入ってしまった。

水が欲しい時は、やはり、お菓子を買いましょう。 飲み比べましたが、醒ヶ井の水も染井の水も良く似ています。
京都三名井の一つ「醒ヶ井」のある和菓子屋「亀屋吉長」 この一方通行の小路が醒ヶ井通りで、北は六角通りから南は五条通りまでである。建物の醒ヶ井通り側に醒ヶ井がある。
醒ヶ井通りに面した醒ヶ井の石碑とイメージ用に作られた井戸。もちろん、醒ヶ井の水が出ているが、一般道に面して、位置も低いところにあるので、衛生的な問題で飲用には適さない。



 この醒ヶ井の水が発端になって、名水を尋ねてみようという企画が家の中で持ち上がった。 まずは、京都三名井では、そのまま現存している京都御苑の東に隣接する梨木神社内にある「染井」に行った。 ここは、水量も豊富で自由に汲ませて貰えるので、いつも順番待ちの列が出来ている。混むので、1人5リットルまでになっているが、何度も並びなおしている人もいる。 染井と醒ヶ井の水を飲み比べてみたが、ほとんど同じ味に感じた。これは、私が味音痴なだけではなく、同じ水脈の井戸であるらしい。 お抹茶では、判らなかったが、いつも飲むコーヒーを汲んできた井戸水でいれると、少し柔らかい感じになっているようにも思えたが、私には浄水器でも十分である。
 さらに、家から近い、西大路八条北東にある若一神社(にゃくいちじんじゃ)は、平清盛所縁の神社で、都大路である西大路通りさえも曲げているご神木の楠は、清盛の手植えと伝えられている。また、清盛がこの神社を建立した直後から立身出世が始まり、出世の神様と崇められているので、その井戸水もさぞかしご利益がありそうだ。 ここの水量も豊富で、自由に汲ませて貰える。近所の人には人気の井戸で、いつも水汲みの人が後を絶えないと聞いているが、染井程の事は無いので、穴場だとも言える。 この辺りは、元々、セリ田で湧き水の多いところだった。絶滅したトゲウオ科の淡水魚、「ミナミトミヨ」もこの辺りに生息してたので、ミナミトミヨが棲んでいた同じ水を飲めるとなると、いつもとは違う思いである。 味見をしてみると、これは醒ヶ井や染井とは、明らかに一味違う。 こちらの方が、水に含んでいるミネラル分が多いのであろう。比較すると、味が少し強く感じられる。 お抹茶では、やはり判らなかったが、いつも薄めのストレートで飲んでいるコーヒーだと、これは美味しい♪ 灯台元暗し。よく横を通っている所に良い水はあったのだ。まるで、メーテルリンクの童話、青い鳥の話のようでもある。幸せの青い鳥を探し回ったけれども見つからず、諦めて家に帰ると、青い鳥は家の鳥かごの中にいた、と言う話である。

24時間いつでも開放されています♪ でも、深夜はちょっと恐いかも・・・ 少し味があるので、飲んで美味しい水です。
若一神社。石垣の上に鎮座する大楠が、西大路通りを曲げている。 
平清盛公ゆかりの御神水。絶滅した「ミナミトミヨ」もこの水で生きていた。


昔の井戸跡は新幹線の下辺りに残っています。 龍の口からチョロチョロとしか水は出ていません。
六孫王神社。八条通り大宮を西に入って最初の信号の交差点にある。ここも家からは近くて、境内の庭はには、池に橋がかかり、春は桜の隠れた名所でもある。 
こちらは、源氏ゆかりの井戸だが、当時の井戸は昭和37年の新幹線の工事で無くなり、これは、その後に掘られた井戸だが、水量は少なく水汲みには苦労する。



 その後も、他の名水を探す企画は続いている。 名水探しのキッカケの話は前にしたが、盛り上がったのには、理由もあった。 水汲みなので、基本的には入れ物さえ有れば、交通費くらいしかお金が掛からない。私はケチだ。。。 水を汲んだり、運んだりと運動にもなるし、自然な水は身体にも良いので、成人病の予防にも一役かってくれるだろうという期待。 しかも、水なので、沢山試飲してもカローリー摂取が無いので、ダイエットの邪魔にもなら無い。まさに家族全員で取り組めるうってつけの企画なのである。
 皆さんも車での釣行時には、ポリタンクを一つ積んでおいて、道中の名水をチェックしておいて美味しい水をお土産にしては。 キープしてしまったお魚を美味しく焚く水としてセット土産にすると気が効いている事をアピール出来るし、また、ボーズで手ぶらな時は、せめてお水だけでもと。

(注意)天然水は、飲用に向かないものもあります。特に、生水の飲用については、十分にご注意下さい。 飲用は、ご自分の責任で行ってください。


大倉記念館入り口です。有料施設です。 柔らかな軟水です。
京都伏見は、酒処で沢山の酒造メーカーの蔵が並ぶ。この地で酒造りが盛んになったのは、伏水と呼ばれる柔らかな軟水の良水が豊富に湧き出るからだ。
酒造メーカー月桂冠の「大倉記念館」の中にもかって使われていた井戸が残っている。各酒造メーカーの蔵以外にも、伏見にはあちこちに良質の井戸がある。


ここも有料施設です。桃の井の水、好きです♪
日本酒の京仕込み発祥の地は、京都御所の南の辺りだ。明治時代に量産の為に各メーカーは、より水の豊かな伏見に移転した。 キンシ正宗の「堀野記念館」の中には、「桃の井」がある。この水は、桃の香りがする柔らかな井戸水だ。



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